何故か分からないけど、あの人が気になる ―パートナーの匂いと人間関係―
「フェロモン」と呼ばれる、一般的にもよく使われる専門用語があります。
厳密には、「動物などが体内で生成、体外に分泌すると、同種の動物に対して何らかの行動、生理的変化をもたらす物質の総称」なのですが、一般的には、特に性的な興奮や性的な繋がりをもたらすような作用を持つ物質を指すことが多いでしょう。
特にフェロモンと言えば、多くの方が嗅覚から感じるもの、つまり匂いを想像されると思います。
それでは、そもそも匂いのフェロモンなどというものは存在するのでしょうか。存在するとして、どのぐらい人間の恋愛において重要なのでしょうか。
動物と匂いのフェロモン
動物の恋愛において匂いという要素は一般に考えられている以上に重要な要因です。
例えば、哺乳類のパートナー同士では、鼻を近づけあう仕種やグルーミング(毛づくろい)などが良く観察されますが、これはお互いの匂いを生み出すバクテリアを交換するための行為だと考えられています。
他にも動物たちはお互いの匂いフェロモンを敏感に感じとることで、自分のパートナーを見つけ出そうとするのです。
このように動物にとって匂いというのは、パートナーとの相性を測ったり、パートナーとの愛情を深める上で重要な役割を果たしていますし、時には匂いのやり取りまで行われています。
人間にとっての匂い
一方、人間の異性のフェロモンを感じ取る嗅覚能力は、こうした動物たちのものに比べて劣っているとされています。しかしながら、人間は自分たちでは知らず知らずの内に異性の匂いに影響されていることが分かっているのです。
例えば、イスラエルの研究者が行った実験では、女性に悲しい映画を見せ、その際に女性たちが流した涙を採取し、男性の鼻の下に塗るという実験を行っています。
すると、男性たちの共感能力が高まる一方で、テストステロンと呼ばれる男性ホルモンの値や性的興奮の度合いが減少したことが分かったのです。
「女の涙は最強の武器」とは言いますが、実際に男性の気持ちを穏やかにし、優しくさせる効果を持っていたのだと言えます。
他の実験では、参加者が普通の気分、悲しい気分、楽しい気分、興奮している気分の時にそれぞれ汗を回収し、参加者にとって全く見知らぬ人と恋愛のパートナーのそれぞれにその汗を嗅いでもらい区別できるかどうかが検討されました。
すると、恋愛のパートナーは全く見知らぬ人に比べ、興奮している匂いとふつうの気分の匂いを区別することができたのです。しかも、その区別の正確さは長く交際しているカップルほど高かったとされています。
このように人間の男女関係において匂いというのは、とても大きな役割を果たしていると言えます。
まとめ
多くの動物は異性のパートナーの微妙な変化やパートナーとの相性をフェロモンなどから嗅覚を通して知るすべを身に着けています。これはフェロモンなどをやり取りする能力に劣った人間でも同様です。
しかしながら、こうした過程は多くの場合、無意識に行われており、私たちが意識的に「今フェロモンを送られているのだな」と気づくことはできません。ですが、それは確実に私たちの心の状態に影響を与えているのです。
最近では、こうしたフェロモンを利用して「魅力的な香水」を作ろうという企業の動きもあります。ですが、研究者たちはこうした動きに対して否定的です。
なぜならば、人間は必ずしも匂いだけで異性を評価しているわけではないからです。人間は、様々な情報を組み合わせて他者の事を判断、評価しています。嗅覚は確かに重要な要素ですが、それだけで異性との関係が決まったり、異性のことが分かったりといったことはないのだと指摘されています。