J-POPに見る愛と恋の違い ―恋には「落ちる」けど愛には「落ちない」?―
今回はちょっと面白い研究をご紹介します。
愛と恋の違いについては、世の中の多くの人が色々な持論を持っています。有名なもので言えば、「愛という漢字の真ん中には心があるから真心がこもっていて、恋という漢字は下の方に心があるから下心だ」という話もあるぐらいです。
では、こうした愛と恋の違いについて、歌の歌詞などではどのように区別され、比喩が用いられているのでしょうか。
言語学者の中島たちはJ-POPの歌詞を「期間」「速度」「方向性」の3つの特徴に分けて分析を行っています。今回は、その研究をもとに愛と恋の違いについて簡単にご紹介します。
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“恋”と“愛”の期間 ―長続きする愛と一瞬で終わる恋―
まず、恋と愛の期間の長さの違いについて見てみましょう。
恋について歌った歌詞は以下のようなものがあります。
「いつか終わってしまう恋なら」
「きっとこの恋もリミット」
「あっという間にこの恋の終わり」
「ひと夏の恋を」
「この夏限りの恋にとびこんで」
「恋に落ちれば」
このように、恋という気持ちは、いずれ終わるものであり、特定の時期に感じやすくなったり、一瞬で作られるものであると認識されていることが分かります。
一方で、愛はどうでしょうか。
「愛は永遠です」
「永久の愛を形にして」
「絶え間なく注ぐ愛の名を永遠と呼ぶことが出来たなら」
「時を超えるこの想いは愛のほか何があるのでしょう」
「限りない愛を」
「いつの日も変わることの無い愛をくれた」
このように、愛は基本的に長続きするものであり、普遍的で、変わらないものであると表現されることが多いようです。「愛が終わる」ことを含んだ歌詞もないわけではありませんが、比率的には7対3程度で“愛は長続き”するようです。
“恋”と“愛”の速度 ―疾走する恋と一歩一歩の愛―
まず、恋の速度を表した歌詞に関してみていきます。
「恋はいつも加速度がついて」
「走り出した恋夜風にゆだね」
「恋はジェットコースター」
「恋の季節を駆け抜けるたび」
「恋の予感がただかけぬけるだけ」
このように、恋は「走る」といったように目標に向かって疾走するイメージがあります。もちろん恋にも段階を踏んで、ゆっくりと歩き続ける歌詞がないわけではありませんが、その比率はもの凄く低いことが分かっています。
一方で愛はどうでしょうか。
「2人歩けるのならその手握り君を愛する」
「2人寄り添って歩いて永久の愛を形にして」
「形の無い愛を2人でいつまでも育ててゆこう」
「ゆっくり愛を育ててね」
「2人の愛はバラードが良い」
このように、愛の場合は恋と比べて「歩く」「ゆっくり」といったキーワードが多く、愛はゆっくりとした速度で作られるものだと思われていることが分かります。
“恋”と“愛”の方向性 ―一方的な恋と双方向の愛―
最後は愛と恋の方向性の違いです。まずは恋について見ていきましょう。
「君ばかり追いかけてた」(曲名:初恋)
「追いかけて恋の足音みだせ!」
「小さな恋の想いは届く 小さな島のあなたのもとへ」
「あなたに届けたい 君に唄う恋のうた」
「君に逢いたいよ 私恋に落ちていく途中」
このように、恋の場合は「私」が主体であることが分かります。「2人の恋」を歌ったものもありますが、比率的には7対3で、恋は自分から相手に一方向的に成立するものだと考えられているようです。
では、愛はどうでしょうか。
「愛が何かを君となら見つけられそうだから」
「1+1=君と僕 そこに生まれる愛」
「共に成長できる愛に」
「愛することを2人の喜びにして」
「愛し愛されること」
「愛しあいたい」
愛の場合、自分から一方的な愛を描いた歌詞はかなり少なく、8対2の比率で「双方向的な愛」が描かれているとされています。このように、恋は一方的なもので愛は双方向的なものだと考えられている傾向があるようです。
まとめ
J-POPを見てみると、恋は「一瞬で終わり、疾走するもので、一方向的」なものだと考えられていることが分かります。一方で、愛は「長続きするもので、じっくりと作られ、双方向的」なものだと考えられているようです。
こうしたことから、人は自分を中心に瞬間的な恋をしますが、相手との関わりの中で自己中心性を失っていき、愛の状態になるのだと一般に考えられていることが分かります。
一応、注意したいのは、今回ご紹介したのはあくまでJ-POPの歌詞の分析結果であり、本当に「愛が永遠に続くのか」あるいは「恋は一瞬で落ちるものなのか」は分からないということです。
あくまで、一般的には「恋はこういうものであり、愛はこういうもの」と“考えられている”ことをご紹介しただけということにはご注意ください。